投稿者: 澤田大志(税理士)

  • 相続税の申告期限(10か月)を過ぎたら ― 無申告加算税・延滞税と、今からできること

    結論

    相続税の申告期限を過ぎていても、税務署に税額を決定されてしまう前に自分から申告すれば、小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も使えます。さらに、調査の通知が来る前に出せばペナルティも無申告加算税5パーセントで済みます。逆に、放置して先に決定されると、特例なしで計算し直された税額に加算税と延滞税が乗ります。分かれ目は「気づいてからどれだけ早く出すか」です。

    相続税の申告期限は「知った日の翌日から10か月」

    相続税の申告と納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。多くの場合は亡くなった日の翌日から数えます。1月10日に亡くなった方であれば、その年の11月10日が期限です(期限の日が土日祝日の場合は翌開庁日)。

    この10か月は、意外と短い期間です。四十九日、相続人の確定(戸籍集め)、財産の洗い出し、遺産分割の話し合い、登記や名義変更——これらを並行して進めているうちに、気づけば期限が目前、というご相談は珍しくありません。

    なお、財産の合計が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、そもそも申告は不要です。まずはご自身が申告義務のある方かどうかを確認してください。

    期限を過ぎるとかかる2つの税金

    期限後に申告した場合、本来の相続税に加えて次の2つがかかります。

    1. 無申告加算税 ― 「いつ出したか」で率が変わる

    無申告加算税は、申告が遅れたこと自体に対する罰則的な税金です。税務署に指摘される前に自分から出したかどうかで、率が大きく変わります。

    申告したタイミング50万円までの部分50万円超300万円以下の部分300万円超の部分
    期限から1か月以内(下の要件を満たす場合)かかりませんかかりませんかかりません
    調査の通知が来る前に自分から申告5%5%5%
    調査の通知後、指摘される前に申告10%15%25%
    調査で指摘された後(原則)15%20%30%

    期限から1か月以内であれば、次の要件をすべて満たす場合に無申告加算税はかかりません。

    • 期限後申告が、法定申告期限から1か月以内に自主的に行われていること
    • 納めるべき税額の全額を法定納期限(=申告期限)までに納付していること
    • 過去5年以内に、相続税について無申告加算税または重加算税を課されたことがなく、この不適用の取扱いを受けていないこと

    また、過去5年以内に無申告加算税などを課されたことがある場合や、前年・前々年も無申告だった場合は、上の率にさらに10パーセントが上乗せされます。財産を意図的に隠していたと判断された場合は、無申告加算税に代えて重加算税40パーセントになります。

    2. 延滞税 ― 納付が遅れた日数に応じてかかる利息

    延滞税は、納付が遅れた期間に対する利息にあたるものです。割合は年ごとに決まり、令和8年(2026年)分は次のとおりです。

    期間割合(年率)
    納期限の翌日から2か月を経過する日まで2.8%
    それ以降9.1%

    2か月を過ぎると率が3倍以上に跳ね上がります。相続税は金額が大きくなりやすいため、延滞税だけでも数十万円単位になることがあります。

    ご注意

    無申告加算税は「申告が遅れたこと」に対するもの、延滞税は「納付が遅れたこと」に対するものです。別々にかかります。申告書だけ先に出しても、納税していなければ延滞税は増え続けます。

    具体例:本来の相続税が500万円、1年遅れた場合

    相続税の本税が500万円で、申告期限から1年遅れたケースで比べてみます。

    ケース無申告加算税延滞税(約1年分)合計の上乗せ
    調査の連絡が来る前に自分で申告25万円(5%)約40万円約65万円
    調査の連絡後、指摘される前に申告92.5万円約40万円約132万円
    調査で指摘された後117.5万円約40万円約157万円
    隠していたと判断された200万円(40%)約40万円約240万円

    同じ「1年遅れ」でも、税務署から連絡が来る前に動いたかどうかで、負担は3倍以上変わります。しかもこの表には、次に説明する特例が使えなくなるリスクは含まれていません。

    本当に痛いのは「特例が使えなくなる」こと

    加算税や延滞税よりも影響が大きいのが、特例の扱いです。

    期限後申告でも、自分で申告書を出せば特例は使えます。 小規模宅地等の特例(自宅の土地の評価額を最大80パーセント減らせる制度)も、配偶者の税額軽減(配偶者が相続した分は1億6,000万円または法定相続分まで非課税になる制度)も、条文上「期限後申告書」を含めて適用が認められています。

    使えなくなるのは、申告しないまま放置し、税務署に税額を決定されてしまった場合です。決定処分には申告書が存在しないため、「申告書に記載して適用を受ける」という要件を満たせません。特例なしで計算し直された税額に、無申告加算税と延滞税が乗ることになります。

    逆に言えば、調査の通知が来た後であっても、決定される前に自分で期限後申告書を出せば特例は使えます。加算税の率は上がりますが、特例そのものは生きます。「連絡が来たからもう手遅れ」ではありません。

    たとえば自宅の土地の評価額が3,000万円なら、小規模宅地等の特例が使えれば600万円まで下がります。使えなければ2,400万円分がそのまま課税対象に戻り、税額の差は数百万円規模になり得ます。

    ただし、財産を隠していた場合は別です。隠蔽・仮装をした部分については、配偶者の税額軽減が適用されません(相続税法19条の2第5項・第6項)。重加算税に加えて、使えるはずだった軽減まで失うことになります。

    なお、遺産分割が決まっていることが特例の前提です。分割が決まっていない場合の扱いは後述します。

    気づいたら、その日のうちに動き出す

    期限を過ぎていることに気づいた時点で、時間は「早ければ早いほど有利」に働きます。

    1. まず申告義務があるかを確認する ― 財産の合計が基礎控除を超えているか。超えていなければ申告は不要です
    2. 税務署から連絡が来ていないかを確認する ― 「相続税の申告等についてのご案内」「お尋ね」が届いている段階なら、まだ調査の通知ではありません。この段階で申告すれば5パーセントで済みます
    3. 税額の概算を出し、納税資金を用意する ― 申告書の作成より先に納付だけ済ませることもできます。延滞税を止められます
    4. 税理士に相談する ― 特例の適用や財産評価に判断を要する部分があるため、遅れている案件ほど専門家の関与が効きます

    「もう少し資料がそろってから」と待つ間にも、延滞税は日割りで増え、調査の通知が来るリスクは上がっていきます。概算でも先に納付しておけば、延滞税はその時点で止まります。

    税務署はどうやって無申告を把握するのか

    「申告しなければ分からないのでは」と思われることがありますが、税務署は次のような情報を持っています。

    • 死亡の情報 ― 市区町村から税務署へ通知されます
    • 生命保険金の支払調書 ― 保険会社から税務署に提出されます
    • 不動産の登記情報 ― 相続登記が行われれば把握できます
    • 金融機関の照会権限 ― 亡くなった方だけでなく、家族名義の口座の入出金も確認できます
    • 過去の確定申告の内容 ― 不動産所得や配当所得から、財産の規模が推定できます

    相続税の無申告は、申告期限から5年(偽りその他不正の行為があった場合は7年)を過ぎると課税できなくなります。ただしこの5年を待つ間、延滞税は増え続け、税務署に先に決定されれば特例は使えません。「時効まで待つ」は現実的な選択肢ではありません。

    遺産分割が決まらない・納税資金がない場合

    期限に間に合わない理由として多いのが、この2つです。どちらにも対応策があります。

    遺産分割が決まらない場合
    法定相続分で分けたものとして、いったん期限内に申告します。このとき「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、後で分割が決まった時点で小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用し、更正の請求で納め過ぎた税金の還付を受けられます。この見込書を出しておかないと、後から特例を使えません。

    納税資金がない場合
    相続税には、分割払いにする延納と、財産そのもので納める物納の制度があります。いずれも申告書の提出と同時に(納期限または納付すべき日までに)申請書を提出する必要があります。申請が遅れると選べなくなるため、「払えないから申告も出さない」という判断が最も不利です。

    まとめ

    • 相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です
    • 期限を過ぎても、税務署から指摘される前に自分から申告すれば無申告加算税は5パーセントで済みます
    • 期限から1か月以内の申告で、全額を納付済みなどの要件を満たせば、無申告加算税はかかりません
    • 延滞税は令和8年で年2.8パーセント(2か月経過後は年9.1パーセント)。納付を先に済ませれば止められます
    • 期限後申告でも小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減は使えます(措法69の4第7項・相法19条の2第3項)。使えなくなるのは、原則として税務署に決定された場合です
    • 分割が決まらないときは「3年以内の分割見込書」、納税資金がないときは延納・物納の申請を、いずれも申告とセットで行います

    期限を過ぎた案件は、一日でも早く動くことが最大の節税になります。当事務所では、期限後の相続税申告もお受けしています。まずは30秒でできる申告要否チェックでご自身に申告義務があるかを確認のうえ、メールでの無料相談からご相談ください。状況をうかがったうえで、いま優先すべきことをお伝えします。

    この記事を書いた人

    澤田 大志(税理士・近畿税理士会枚方支部 登録番号149197)。大阪府枚方市の澤田大志税理士事務所代表。オンライン専門の事務所として法人・個人あわせて年間300件超の申告を担当。相続税申告は、税務署出身(国税OB)の税理士とともに2名体制でお受けしています。相続税申告のご案内はこちら

    ※ 記事の内容は公開日時点の法令に基づく一般的な解説です。個別の事情によって結論が変わることがありますので、実際の判断はご相談のうえで行ってください。

  • 自分で相続税申告をする人がつまずく5か所 ― 税理士に頼む境目はどこか

    結論

    相続税の申告は、自分でもできます。国税庁の手引きは丁寧で、e-Taxでも提出できます。ただし実務で見ていると、つまずく場所はほぼ決まっています。土地の評価/家族名義の預金/特例の要件/添付書類/遺産分割協議書の5つです。このうち前の3つは、間違えると納める税額そのものが変わります。財産が預貯金だけなら自分で十分。土地がある時点で、一度は専門家に見せたほうが安全です。

    つまずき① 土地の評価

    もっとも差が出るのがここです。土地の相続税評価は、市街地なら路線価方式(路線価×地積)で計算します。ここまでは誰でもできます。問題は、実際の土地がきれいな四角形で道路に面していることは少ない、という点です。

    評価額を動かす補正には、たとえば次のようなものがあります。

    • 奥行価格補正 ― 奥行が極端に長い/短い土地は評価が下がる
    • 間口狭小・奥行長大補正 ― 道路に接する幅が狭い土地は下がる
    • 不整形地補正 ― 三角形や旗竿地など、整形でない土地は下がる
    • 無道路地・私道 ― 道路に接していない土地、私道部分の扱い
    • 貸家建付地・貸宅地 ― 他人に貸している土地・建物がある土地は下がる
    • 都市計画道路予定地、がけ地、容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地

    路線価に地積を掛けただけの評価は、多く払いすぎていることがよくあります。逆に、下げられると思って根拠のない補正をかければ過少申告になります。どちらも起きるのがこの論点の厄介さです。

    郊外や農地・山林では倍率方式(固定資産税評価額×倍率)になり、こちらは比較的単純です。ご自身の土地がどちらなのかは、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認できます。

    つまずき② 家族名義の預金の判断

    親が子や孫の名義で貯めていた預金、配偶者名義に移していたお金。これらは名義ではなく実質的に誰の財産かで判断します。お金の出どころが亡くなった方で、通帳や印鑑を管理していたのも亡くなった方なら、相続財産に含めて申告します。

    自分で申告される方が見落としやすいのは、この判断以前にそもそも家族の口座を集計の対象にしていないことです。税務調査でもっとも指摘が多いのが預金なので、ここは避けて通れません。詳しくは名義預金の記事をご覧ください。

    あわせて、亡くなる直前の大きな出金(入院費、リフォーム、家族への送金)も、使途を説明できるよう整理しておく必要があります。

    つまずき③ 特例の要件

    小規模宅地等の特例は「自宅の土地は80パーセント下がる」と覚えられていますが、要件は細かいです。

    区分限度面積減額割合
    特定居住用宅地等(自宅)330㎡80%
    特定事業用宅地等(店舗・工場など)400㎡80%
    貸付事業用宅地等(アパート・駐車場など)200㎡50%

    つまずくのは、この表の外側です。

    • 誰が相続するかで使えるかどうかが変わります。配偶者は無条件、同居していた親族は住み続けることが要件、別居の親族(いわゆる家なき子)は持ち家がないことなどの厳しい要件があります
    • 居住用と貸付用を併用する場合は、限度面積の調整計算が必要です(単純に330㎡+200㎡にはなりません)
    • 二世帯住宅、老人ホームに入居していた場合、店舗兼住宅など、判断が分かれる形が多いです

    配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)も同じで、申告書に記載して提出することが要件です。どちらも、使えるつもりで計算して要件を外していた、というのが最も痛い間違いになります。

    ご注意

    相続人が兄弟姉妹や孫の場合、相続税額が2割加算されます(配偶者と一親等の血族以外が対象。孫を養子にしている場合も加算対象です)。また法定相続人の数の数え方は、相続放棄があっても放棄がなかったものとして数えます。基礎控除と保険の非課税枠に直結するので、相続人の構成が単純でない場合は要注意です。

    つまずき④ 添付書類

    税額の計算が合っていても、書類が足りなければ特例が使えません。相続税の申告で必要になる書類は、ざっと次のようなものです。

    • 相続人の確認 ― 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、相続人全員の戸籍・印鑑証明書。法務局の法定相続情報一覧図の写しを使えば戸籍の束の代わりになります
    • 分け方の確認 ― 遺言書または遺産分割協議書の写し
    • 不動産 ― 登記事項証明書、固定資産評価証明書、公図・地積測量図、賃貸借契約書
    • 預貯金 ― 残高証明書、既経過利息計算書、過去数年分の取引履歴
    • 保険・退職金 ― 支払通知書
    • 債務・葬式費用 ― 請求書、領収書
    • 特例を使う場合 ― 小規模宅地等の特例の明細書、住民票、(家なき子なら)持ち家がないことを示す書類

    集めるだけで数十点、取り寄せに数週間かかるものもあります。10か月の期限のうち、かなりの部分がこの作業に消えます。

    つまずき⑤ 遺産分割協議書の書き方

    税額には直接ひびきませんが、後でやり直しになるのがここです。

    • 財産の特定が不十分(「自宅」ではなく登記どおりの所在・地番・地積で書く、口座は金融機関・支店・口座番号まで書く)
    • 後から見つかった財産の扱いを決めていない(「本協議書に記載のない財産は〇〇が取得する」などの条項を入れておく)
    • 相続人全員の署名・実印・印鑑証明が揃っていない
    • 代償分割(一方が多く取り、他方に金銭を渡す)の記載が曖昧で、贈与と見られかねない

    金融機関や法務局で受け付けてもらえず作り直し、というのは珍しくありません。

    自分でやってよい場合と、頼んだほうがよい場合

    こういう相続なら判断
    財産は預貯金と上場株式だけ。相続人は配偶者と子自分でもできます
    自宅の土地がある。形が整っていて、特例の要件も明らか自分でもできますが、一度は確認を
    土地が複数ある/形が整っていない/貸している税理士へ
    非上場株式がある税理士へ
    家族名義の口座に大きな出入りがある税理士へ
    相続人が兄弟姉妹・代襲相続・養子を含む税理士へ(2割加算と相続人の数の判定)
    期限まで3か月を切っている税理士へ(間に合わせる段取りが要ります)

    判断の軸は、税額が動く余地がどれだけあるかです。預貯金は誰が計算しても同じ金額になりますが、土地と非上場株式は評価する人によって金額が変わります。変わる余地が大きいほど、専門家を入れる価値があります。

    間違っていたと後で気づいたら

    • 納め足りなかった場合 ― 修正申告をします。税務署の指摘前なら加算税はかかりません(延滞税はかかります)。指摘後は過少申告加算税(原則10〜15パーセント)が加わります
    • 納めすぎていた場合 ― 申告期限から5年以内なら、更正の請求で還付を受けられます。土地の評価が過大だったケースがここに当たります

    「自分で出したけれど、土地の評価に自信がない」という段階でのご相談も受けています。払いすぎていれば還付を請求できますし、足りなければ指摘される前に直せます。

    まとめ

    • 相続税の申告は自分でもできます。つまずくのは土地の評価/家族名義の預金/特例の要件/添付書類/遺産分割協議書の5か所
    • このうち税額そのものが変わるのは前の3つ。書類と協議書は手間の問題です
    • 土地と非上場株式は、評価する人によって金額が変わります。ここが大きいほど専門家を入れる価値があります
    • 出した後でも直せます。納めすぎは5年以内なら更正の請求、足りなければ指摘前の修正申告

    ご自身がどちら側かの目安として、まず30秒でできる申告要否チェックで申告義務があるかを確認してください。そのうえで、土地の評価や特例の要件で迷う点があれば、メールでの無料相談からお気軽にお尋ねください。「自分でやるべきか、頼むべきか」の判断だけでもお答えします。

    この記事を書いた人

    澤田 大志(税理士・近畿税理士会枚方支部 登録番号149197)。大阪府枚方市の澤田大志税理士事務所代表。オンライン専門の事務所として法人・個人あわせて年間300件超の申告を担当。相続税申告は、税務署出身(国税OB)の税理士とともに2名体制でお受けしています。相続税申告のご案内はこちら

    ※ 記事の内容は公開日時点の法令に基づく一般的な解説です。個別の事情によって結論が変わることがありますので、実際の判断はご相談のうえで行ってください。

  • 名義預金とは ― 家族名義の預金が「亡くなった方の財産」に戻される基準

    結論

    家族の名義になっていても、お金を出したのが亡くなった方で、通帳や印鑑を管理していたのも亡くなった方だった預金は、「名義預金」として相続財産に含めて申告します。相続税の税務調査でもっとも指摘が多いのがこの論点です。名義を分けたこと自体には、財産を移す効果はありません。

    名義預金とは何か

    名義預金とは、口座の名義人と、その預金の実質的な持ち主が違う預金のことです。典型的なのは次のようなケースです。

    • 親が、子や孫の名義で口座を作り、毎年少しずつ入金していた
    • 専業主婦(主夫)の名義の口座に、配偶者の給与から生活費とは別に貯めていた
    • 親が子の名義で口座を作ったが、通帳も印鑑もキャッシュカードもすべて親の手元にある

    いずれも「名義は家族、お金の出どころと管理は亡くなった方」という形です。相続税の計算では、名義ではなく実質的に誰の財産かで判断するため、これらは亡くなった方の財産として集計します。

    名義預金かどうかを分ける4つの見方

    税務署は、おおむね次の4点から判断します。裁判例や国税不服審判所の判断でも、この4点が繰り返し使われています。

    見る点名義預金と判断されやすい名義人本人の財産と認められやすい
    お金の出どころ亡くなった方の収入・預金から出ている名義人自身の収入や、正式に受けた贈与が原資
    通帳・印鑑の管理亡くなった方が保管していた名義人が自分で保管していた
    贈与の合意名義人が口座の存在を知らなかった「あげます」「もらいます」の合意があった
    使えたかどうか名義人が自由に引き出せなかった名義人が自分の判断で使っていた

    4つすべてがそろっている必要はありませんが、「本人が知らない」「本人が使えない」の2つに当てはまると、名義預金と判断される可能性がかなり高くなります。

    なお、印鑑が親と同じもので統一されている、口座の届出住所が親の住所のまま、という点も判断材料になります。

    「毎年110万円ずつ」でも安心できない理由

    贈与税の基礎控除は年110万円です。この範囲で毎年渡していれば贈与税はかかりません。ただしこれは、贈与が成立していることが前提です。

    贈与は、渡す側の「あげます」と受け取る側の「もらいます」がそろって初めて成立します。子どもが口座の存在すら知らなかった場合、法律上、贈与は成立していません。その口座は名義が変わっただけの、亡くなった方の預金ということになります。

    「110万円ずつだから大丈夫」と考えて10年、20年と続けてきた結果、まとまった金額が相続財産に戻される、というのがもっとも多い失敗の形です。

    ご注意

    「贈与が成立していたか」と「相続財産に足し戻されるか」は、別の話です。贈与としてきちんと成立していた場合でも、亡くなる前の一定期間内に受けた贈与は、相続財産に加算して相続税を計算します(この加算のルールは別の記事で扱います)。この記事ではまず、贈与が成立していたといえるかどうかを確認してください。ここが崩れると、加算の期間に関係なく、口座の全額が亡くなった方の財産として扱われます。

    申告しなかった場合に起きること

    名義預金は、相続税の税務調査でもっとも指摘の多い項目です。税務署は、亡くなった方だけでなく家族名義の口座の入出金履歴も確認できます。過去の資金移動から、原資が誰であったかをたどることができます。

    指摘された場合の負担は次のとおりです。

    • 本来納めるべきだった相続税
    • 過少申告加算税(原則10%、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)
    • 延滞税(納付が遅れた期間に応じて)
    • 意図的に隠したと判断された場合は、加算税が重加算税(35%)に変わります

    単純に申告から漏れていた場合と、隠していたと判断された場合とでは、負担が大きく変わります。判断に迷う口座があるなら、隠すのではなく、申告書に含めるか、税理士に相談して整理しておく方が安全です。

    これから備える方法

    まだ時間がある場合は、次の形に改めておくと、贈与として認められやすくなります。

    1. 贈与契約書を作る(渡す側・受け取る側の双方が署名)
    2. 受け取る側が自分で開設・管理している口座に振り込む
    3. 通帳・印鑑・キャッシュカードは受け取る側が保管する
    4. 受け取った側が、実際にそのお金を使える状態にしておく
    5. 現金手渡しではなく、銀行振込で記録を残す

    過去にさかのぼって契約書を作るのは避けてください。日付を偽った書類は、指摘されたときに「意図的に隠した」と判断される材料になります。

    相続が始まってから気づいた場合

    すでに相続が発生している場合は、家族名義の口座も含めて洗い出したうえで、名義預金に当たるものを相続財産に含めて申告します。判断が難しいのは、次のようなケースです。

    • 名義人がある程度は認識していたが、実際には使っていなかった
    • 配偶者名義の預金で、原資の一部は配偶者自身のパート収入である
    • 数十年前の入金で、原資をたどる資料が残っていない

    この種の判断は、金額の大小より説明できるかどうかが重要です。当事務所では、通帳の入出金を一覧表にして家族口座間の資金移動を整理する作業をお受けしています。「どの口座の、いつの、いくらが、どこから来たか」を並べると、判断できるものが一気に増えます。

    まとめ

    • 名義預金は「名義」ではなく「実質的に誰の財産か」で判断されます
    • 分かれ目は、原資・管理・贈与の合意・自由に使えたか、の4点
    • 毎年110万円以内でも、贈与が成立していなければ相続財産に戻ります
    • 指摘されると加算税と延滞税がかかり、隠したと判断されれば重加算税になります
    • これからの贈与は、契約書・本人管理の口座・銀行振込の3点で記録を残してください

    家族名義の口座を含めると基礎控除を超えそうか、まずは概算で確認できます。30秒でできる申告要否チェックをお試しください。判断に迷う口座がある場合は、メールでの無料相談からご相談ください。

    この記事を書いた人

    澤田 大志(税理士・近畿税理士会枚方支部 登録番号149197)。大阪府枚方市の澤田大志税理士事務所代表。オンライン専門の事務所として法人・個人あわせて年間300件超の申告を担当。相続税申告は、税務署出身(国税OB)の税理士とともに2名体制でお受けしています。相続税申告のご案内はこちら

    ※ 記事の内容は公開日時点の法令に基づく一般的な解説です。個別の事情によって結論が変わることがありますので、実際の判断はご相談のうえで行ってください。

  • 「特例を使えば相続税は0円」でも申告は必要です ― 小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減の落とし穴

    結論

    相続税には「使えば税額が0円になる特例」がいくつかありますが、そのうち代表的な小規模宅地等の特例配偶者の税額軽減は、申告書を提出してはじめて使える制度です。「申告が必要かどうか」は特例を使うの金額で判定するため、特例で0円になる方は、税額0円の申告書を期限内(10か月以内)に出す必要があります。

    なぜ「払う税金がないのに申告が必要」なのか

    相続税の申告が必要になるのは、亡くなった方の財産の合計(正確には「課税価格の合計額」)が基礎控除額を超える場合です。基礎控除額は次の式で決まります。

    基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

    たとえば相続人が配偶者と子2人の3人なら、3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。財産の合計がこれを超えなければ、申告も納税も必要ありません。

    問題は、財産の合計が基礎控除を超えている方が、特例を使って税額を0円にするケースです。小規模宅地等の特例(自宅の土地の評価額を最大80%減らせる制度)や配偶者の税額軽減(配偶者が相続した分は1億6,000万円または法定相続分まで非課税になる制度)は、法律の条文で「相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、必要な書類を添付した場合に限り適用する」と決められています。つまり、申告書を出さない限り、特例は存在しないものとして扱われるのです。

    この判定の順番を整理すると、次のようになります。

    1. まず、特例を使う前の金額で「基礎控除を超えるか」を判定する
    2. 超えていれば、申告義務が発生する
    3. 申告書の中で特例を適用し、その結果として税額が0円になる

    3の結果だけを見て「0円だから申告はいらない」と考えるのが、最も多い誤解です。

    具体例:自宅と預金で6,000万円、相続人は配偶者と子2人

    財産特例を使う前の評価額小規模宅地等の特例を使った後
    自宅の土地(200㎡)3,000万円600万円(80%減)
    自宅の建物500万円500万円
    預貯金2,500万円2,500万円
    合計6,000万円3,600万円

    基礎控除額は4,800万円です。特例を使う前の合計6,000万円は基礎控除を超えているので、申告義務があります。一方、特例を使った後の合計3,600万円は基礎控除の範囲内なので、納める相続税は0円です。

    このご家庭がすべきことは、「相続税0円」と書かれた申告書を、小規模宅地等の特例の計算明細書や戸籍などの添付書類とともに、期限内に税務署へ提出することです。逆に、財産の合計がもともと4,800万円以下であれば、特例を使う必要がないので申告そのものが不要です。

    「基礎控除以下」と「特例で0円」は、まったく別のもの

    財産の合計が基礎控除以下特例を使って税額が0円
    申告書の提出不要必要
    添付書類不要必要(戸籍、遺産分割協議書、住民票、土地の資料など)
    期限なし相続開始を知った日の翌日から10か月以内
    遺産分割決まっていなくてよい特例を使う財産について、分け方が決まっている必要がある

    見た目はどちらも「税金0円」ですが、手続きの重さは大きく違います。ご自身がどちらに当たるかは、特例を使う前の財産の合計を出せば分かります。

    申告しないまま期限を過ぎると、何が起きるか

    期限を過ぎても、税務署から連絡が来る前にご自身で申告(期限後申告)すれば、小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も適用できます。税額が0円なら、無申告加算税(税額に対して課される罰金的な税金)も0円です。この意味では、期限を過ぎたからといって直ちに大きな損が出るわけではありません。

    本当に怖いのは、申告しないまま放置し、税務署の調査で先に税額を決定されてしまう場合です。この場合、特例は使えません。特例なしで計算した本来の税額に加えて、無申告加算税(税額の15〜30%)と延滞税がかかります。上の例なら、6,000万円を基礎に計算した数十万円〜百数十万円の税金が、丸ごと発生することになります。「0円で済んだはずのもの」が、申告書を出さなかったという一点で、まとまった金額に変わってしまうのです。

    税務署は、亡くなった方の不動産や預貯金の情報を把握しています。「うちは小さい相続だから見られない」という期待はしないほうが安全です。

    申告期限までに分け方が決まらない場合

    小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は、対象となる財産の分け方(誰が相続するか)が決まっていることが前提です。相続人の話し合いが期限に間に合わないことは珍しくありませんが、その場合の手続きも用意されています。

    ご注意

    分け方が決まっていない場合は、いったん特例を使わずに計算した税額で期限内に申告・納税し、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。その後、分け方が決まった日の翌日から4か月以内に更正の請求をすれば、特例を適用し直して納め過ぎた税金の還付を受けられます。この手続きをせずに期限を過ぎると、分割後に特例を使えなくなるおそれがあります。

    よくある誤解

    「配偶者が全部相続するので税金はかからない。だから申告もいらない」
    配偶者の税額軽減で税額が0円になる典型例ですが、これも申告が必要です。むしろ配偶者の税額軽減は使える金額が大きい分、「申告していなかった」ときの差額も大きくなります。

    「税務署から申告のお知らせが来ていないから、うちは対象外」
    税務署から「相続税の申告等についてのご案内」が届くことはありますが、届かないからといって申告義務がないわけではありません。判定はご自身で(または税理士と)行う必要があります。

    「自分で計算したら基礎控除ギリギリだった」
    家族名義の預金(名義預金)、亡くなる前の一定期間(最長7年)内の贈与、生命保険金など、見落としやすい財産があります。ギリギリのラインの方ほど、一度は専門家に財産の洗い出しを確認してもらうことをおすすめします。

    まとめ ― まず「特例を使う前の合計」を出してください

    • 申告が必要かどうかは、特例を使う前の財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかで決まります
    • 小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減で0円になる方は、税額0円の申告書を10か月以内に提出する必要があります
    • 申告しないまま税務署に決定されると、特例なしの税額と加算税・延滞税がかかります
    • 分け方が決まらないときは「3年以内の分割見込書」を添えて期限内に申告し、後で更正の請求をします

    ご自身のケースが「申告不要」なのか「特例で0円だが申告は必要」なのか迷ったら、当事務所の30秒でできる申告要否チェックでおおよその判定ができます。ギリギリの方や、財産の洗い出しに不安がある方は、メールでの無料相談をご利用ください。

    この記事を書いた人

    澤田 大志(税理士・近畿税理士会枚方支部 登録番号149197)。大阪府枚方市の澤田大志税理士事務所代表。オンライン専門の事務所として法人・個人あわせて年間300件超の申告を担当。相続税申告は、税務署出身(国税OB)の税理士とともに2名体制でお受けしています。相続税申告のご案内はこちら

    ※ 記事の内容は公開日時点の法令に基づく一般的な解説です。個別の事情によって結論が変わることがありますので、実際の判断はご相談のうえで行ってください。